どうしちゃったのかな。またぞろ長くてはっきりした夢を見た。
いろんな要素が混じり合っていたが、印象的なのは夢の中で絵を描いたことだ。

それは沖縄らしい。山の上から見ている光景。
一本のまっすぐな道が海岸沿いに走っている。道路以外は森。そして海。海に大きな島が浮かんでいる。それを絵に描く。道をグレイに。森を緑に。そして、島を黄色に描くのだが、
「いや違う。この島はオレンジだ。燃えるようなオレンジ色でなくてはいけない。このコントラストが沖縄だ!」
と思い直す……という夢。

さらにダラダラと夢は続く。四人で旅をしている。仕事らしい。車で移動している。いきなり私は「そういえば明日、フランスに行く予定だった」ということに突然に気がつく。ある友人と約束をしていたのだ。出発日は明日だった。待ち合わせはどうなったろう。待ち合わせを決めなくてはと焦る。彼がすべてのチケットを手配しているかもしれないからだ。なんとか彼に連絡をとろうと思うが、旅先ゆえ連絡先がわからない。しかも、フランスに行く約束までしているのに相手の名前を忘れてしまっている。104で問い合わせて見るが、そんな名前の人はいないという。
夢の中で、旅行は続く。いっしょに旅をしている仲間たちもあれこれ心配してくれる。いろんなエピソードがあるのだが、とにかく私は突然、夢のなかで知人の名前を思いだす。
そして彼に電話をする。
「明日、フランスに行く予定だったよね?」
相手はしどろもどろに言う。
「フランス、ああ、そんなこと言ったよね。でもまさか本気にしてるとは思わなかった。ごめん」
私は、やっぱりそうかと思いほっとする。
「約束したことは守るんだよ、私は」
と偉そうに威張っている。
「とにかく、今回のフランス行きはなしね。了解。今度なにかで埋め合わせしてね」
と恩まで着せて電話を切る。

そして「フランス行きはなくなっちゃった」と友達に言う。
するとその友達が妙なことを言いだす。
「私、あれを思い出しました」
「なに?」
「確か大宰治の小説で……」
「人間失格?」
「そんな有名なのじゃなくて……」
「じゃあ、雁?」
「それかもしれない」
夢のなかでそれは太宰の小説じゃなくて別の人のではないか……と思っている。
次の瞬間には、私は自分の仕事場でその「雁」という小説を読んでいるのだ。
はっきりと文章を読んでいる。その小説は、少年が母親について書いたものだ。少年の母親は霊的な力をもっていて巫女のような存在。だが、その母親のオカルトな語りに少年は少しうんざりしている。少年の口調で母親の存在がすばらしく流麗に語られる。
読んでいる私は「うまい。太宰の文章はうますぎる!」と感嘆している。
物語のなかで、母親は少年の心情に全く気がつかないか……のようにふるまうのだが、ある日自分の話を聞いている少年に向かってそっけなく言う。
「あなたはいつも同じ顏」
その言葉に少年はぐさっとくる。いつも同じ顏をしているのか。自分の顏はどんな顏なのだろうか……と。そして最後に彼は「ヘビの子はヘビであり、自分のなかにも母と同じ血が流れている」ということに気づき、自分の手の先から植物の蔓が伸びてそれが青い空に届く……という描写で終わるのだ。
この短編を夢のなかで私は一文字づつはっきりと読み取っており、ここまで明晰に夢で小説を読んだのは生まれて初めてで、目が醒めてからちょっと現実に戻れなかった。

夢のなかで、思い出せなかった相手の名前を思い出し、連絡がとれなかった相手と連絡がとれた。こういうことはめずらしい。だいたいわからないし、コミュニケーションできないままに夢は終わるのだ。さらに、夢のなかで小説を読み切るなど、信じられない。

昨日は、秋山眞人さんが電話をくれた。
「ゆうべ田口さんの夢を見たんです」
秋山さんの夕方の電話が、私の夜の夢と関係あるのだろうか。
「どんな夢を見たんですか?」
「あのねえ、田口さんが海岸沿いの急なつづれ織りの道をどんどん登って行って、大きな建物に入ってくんです。そこで、田口さんはトウモロコシをもらってるんです。下の方じゃあ津波が起こったりして、大変なことになってるんですが、田口さんは世の中が大変になるほど自分はどんどん元気になる人なんだなあ、って思ったんですよ」
トウモロコシ?
最初に思い出したのは、ナバホでマヤ族の末裔のネイティブからトウモロコシをもらったことだ。それはずっと部屋にあったのだが、カビがはいえてきたので引っ越しの時に捨てたのだ。捨てたトウモロコシを、誰かの夢のなかでまたもらっている。面白い。
そのトウモロコシは四色あって、それぞれに方角と意味があると言われた。
彼らの神様はトウモロコシから人間や動物を作ったのだそうだ。
私が捨てたのは白いトウモロコシだった。
夢のなかでもらったトウモロコシの色を聞くのを、忘れた。
ちかぢか、秋山さんと四国に旅に行こうと話して、電話を切る。
by flammableskirt | 2008-09-25 10:53

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