考える癖
2008年 08月 16日
久しぶりに小菅の東京拘置所に、林さんの面会に行く。
綾瀬川沿いに続く小菅拘置所の壁が取り壊されていてびっくりした。
東京拘置所は数年前に建物が新しくなり、事情はよくわからなかったが拘置所の個室も、以前は外が見えたが今はかろうじてわずかに空が見える程度しか窓がない……らしい。見たことはない。林さんにそう聞いた。
恐ろしく近代的な建物になって、拘置されている人たちは完全に自然から切り離された。無機質だ。ものすごく無機質。近くに寄るだけで暑い。以前は外での運動時間があったらしいが、いまはなくなったと聞く。脱走の可能性がなくなったので壁はいらなくなったのだろうか。
湯河原は盆に入って急に涼しくなり、風が秋を感じさせる。
だが、東京は暑かった。むせかる。息を吸い込むと肺が痛い。
面会の後、林さんの支援者のミーティングがあり、林さんのお母さんを囲んで四人で新宿でお昼ご飯を食べた。死刑囚と面会できるのは、家族と友人三人まで。私以外で友人枠で支援している人たちと初めてお会いした。いろいろ話をしているうちに午後4時になる。
東京駅から新幹線で自宅に戻る。庭に水をまこうとしていると、ご近所のノリちゃんママとおばあちゃんが、父のお焼香に来てくれた。初盆を覚えていてくれたのだ。ありがたい。今夜は海岸で精霊流しがあるというので、皆で海岸に降りてみた。台風が伊豆七島を通過しているため、波が強く、灯籠を海に流せないので浜に並べてあった。月がきれいだった。明日は満月だ。
夜、娘の作文を見る。なかなかうまく書けていた。修学旅行で足尾銅山に行ったときのことが書かれている。足尾銅山の田中正造について説明しているうちに、公害問題に話が及び、水俣病発生から現在に至るまでの歴史を一時間も熱弁してしまった。ついでに、被爆者の認定問題も解説したら、11時になってしまった。
娘は「知らなかった!」を連発し、「どうして認定してあげないの?」「どうして国は病気の人をいじめるの?」と、「どうして?」を連呼するが、それはこっちが聞きたい(笑)
「みんなに平等にお金を分配したら、みんなが幸せになれる」と、短絡的なことを言うので、
「それは共産主義というのだ。それを実践した国がある。たとえばソ連と中国と北朝鮮だ。ソ連は失敗し、北朝鮮は嫌われて、中国ではいま工場の周りに住む人たちが日本以上の公害問題に苦しんでいる。いかに正しい考えを実行しようとしても、自分の考えに固執したとき、他者を踏みにじるのが人間だ。結果として、違う価値観の人間を差別し、迫害することになる。学校ではもっとこういう問題をみんなで議論する時間をもってほしい。他の先進国では、社会問題を生徒が活発に議論するのに、日本ではそういう教育がないがしろにされている。とても残念だ」
と、私が言ったら、娘が、
「学校でこういう話をしたら、先生が白い目で見られるんじゃない?」
と言う。
「なぜ?」
「なんとなく……」
考える力を、鍛えてほしい。子どものときに、難しい答えの出ない問題を考える癖をつけることが大切だ。