ゴクセン

ゆうべはとても寒かった。
福井の友達が「ふぐ鰭」を送ってきてくれたので、湯豆腐で鰭酒を飲んだ。

湯豆腐をつつきながら、久しぶりにテレビドラマを観た。
「ごくせん」というドラマで人気番組らしい。

今回は、極道の四代目である女教師の教え子が、暴力沙汰を起こしつつ改心する話。
教え子は両親を亡くして姉と二人暮らし。姉は昼は歯科助手、夜はキャバクラみたいなところに勤めているらしい。姉に迷惑をかけたくない気持ちをうまく表現できない弟、という設定。

弟は禁止されているバイトをしてお金をためて独立しようとしている。というのも、姉の結婚が自分のせいで破談になったと思いこんでいるからだ。まだ自分の自意識をコントロールできない弟は、姉に素直に「自分がいてもいいのか?」と聞けない。自分の思い込みがすべてだと思っている。なので理由も説明せず、禁止のバイトを探して盛り場をうろついているうちに、警察に補導され、警官の心ないイヤミな言葉にムカつき、キレて相手を殴り、もはや退学……。

みたいな設定で話は進む。子どもと観ていて、「ごくせん」が生徒に「姉さんを守ってやるのはオマエしかいないだろう」と諭すところで、ぼろぼろ泣いて、「かあさん、また泣いてるの? 泣き虫だねえ」と手を握ってもらった。私はこういう人情ものに弱いのである。しくしく。

しかし、見終ったあと、なんだかだんだん腹が立ってきた。
「そもそも、教師というのは子どもに、なにがあっても暴力はいけない、と教えるべき存在だ!それなのに、自分の腕力を見せつけるような態度を先生が示してはいけない」
 さっきまで泣いていた親が、急に起こりだしたので、子どもは呆れつつも、
「それもそうだね」
 と、いちおう相づちを打った。
「だいたい、あの生徒は、いくらイヤミを言われたからと言って、だから相手にいきなり暴力をふるうというのは未熟すぎる。あの場合は、毅然として『そういう言い方はやめてください』と言葉で反論すべきだし、それができなかったとしても暴力はいかん。暴力でなんでも解決しようとするから、戦争が起こるんだ。悪いのはあの生徒である」
「なるほど……」
「なのに、ゴクセンは、生徒のピンチをこれまたキレて暴力で救った。あんな姿を見せられたら、けっきょく子どもは、困ったことがあったらキレて相手を威嚇して解決すればいいんだ。それも正義であれば許される、と誤解してしまう。まったく困った番組だ」
「だって、かあさん、泣いてたじゃない?」
「言うことは立派で一理ある。だが、言葉と態度が矛盾していることに本人が気がついていない。しょせん極道育ちだから、腕力で物事を解決しようとするのだ。そういうことは世の中では通用しないということ教えるのが学校である」
「はあ……」
「しかもだなあ、あの生徒は最後まで『自分が暴力をふるって悪かった』とは思っていない。謝ったのは『ねえちゃんのため』だと、理事長にまで言っている。そんな甘ったるい、くそったれな理屈で自分の暴力性に無自覚な奴は、平気で同じことをする。正義を行使するためには暴力は正統な手段だと学んでしまった。戦争が起こったら敵を倒すために平気で戦地に行くだろう。家族を守るため、とか言ってさ」
「うーーん」
「だから、極道先生で、ゴクセンなんだろう。まったくタイトル通りの内容だ。タイトルで内容を説明しているのだから、正直とも言えるが、あんな理屈は21世紀には通用しないからね。前世紀の時代遅れな価値観だと思って観てればいいよ」
「あ。そういえばゴクセンって水戸黄門と同じだね」
「そうそう、あれは水戸黄門だ。権威を権威で封じ込めてるだけ。同じ構造なんだよ。前世紀の遺物だ。でも、人は権威が好きなんだ。権威で相手がひれふすのを見るのが快感なんだ。快感であることはそれでいいんだ。でも、なんで自分がこれを好きなのか、その理由を自覚しながら観るんだよ。ああ、暴力で人を封じ込めるのって、すかっとするんだなあ。そういう気持ちが自分にあるんだ、ってね」
by flammableskirt | 2008-05-11 10:20

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