部屋の処分
2008年 04月 28日
作業着姿のだんなさんは無口。奥さんは、勢いよく部屋に上がり「まあ、財産持ちだこと」と父の残したガラクタをがんがん見て回り、そして言った。
「早いほうがいいでしょ、明日、もってきましょうか?」
「あ、あした……では仕分けが……」
「仕分けはこっちでやるから」
「いえ、あのいちおう私が必要なものを……」
「ああ、ああ、そうねでもそうすると連休明けになっちゃうわねえ」
連休明けでもいいので、そうしてもらった。
「うちはね、きれいに全部持ってくから安心して。もう誰も立ち合わなくても大丈夫よ、いっぱいで来て一気にやるから。終わったあとも掃除してくしね」
こういうことには慣れているらしく、とにかくありとあらゆる家財道具、全部、回収してくれるらしい。そうなったらこの部屋はがらんどうになり、そして、リフォームすることになる。
「だいたい、トラック四台分だわね」
ここのものがなくなると、父がこの世にいたという形跡もほんとうに消えるな……と思うと、息苦しいような、ひどくせつない気持ちになった。喪失というのはこういうものだ。涙なんかじゃなく、ものすごく乾いた欠如感としてやってくる。かわいて、からっぽで、ひりひりするような感じだ。ここに何を埋めても絶対に埋められない……。そういう空白をもつことが、肉親を亡くすということだ。でもまあ、そんな穴が体中に空いていると、これはこれで、そのせつなさがなんともオツだったりするものだ。
人間、穴の一つや二つ、空いていないと風通しが悪くていけない。
「じゃあ、あとはあたしたちにまかせて!」
こういうことは、相手がさばさばしていてくれると助かる。残しておいていいものなんてなにもないんだ。せいぜい、ひとつかふたつ。それでも、この部屋を消すのに、連休明けまで引き伸ばした私はやっぱり、ウエットだなと思う。