
わりと新幹線がすいていて、午前中早めにホスピスに着いた。ホスピスって言ってもふつうの病院の緩和ケア病棟にちっちゃな応接スペースがあるくらいのもので、ぜんぜん使われていないと思われるオルガンと紙でつくった花かざりがあった。
病室に入っていくと、友人は起きてニコニコしている。
「今にも死にそうな声だったから、あてて来たのにわりと元気そうだね」と言うと、友人は「私、受け入れた!」という。これはつまり「死ぬ気がしてきた」ということだ。本人が死ぬ気がしないのに余命を告げられても困るだろう。なんとなく普通じゃないな、これはもう変だ……という感じがするまで、人は死ぬ気になれないと思う。
「そうなんだね、それはよかった」
全然死ぬ気がしない、と前回に来た時は言っていた。この数日間で体調が変化したんだろう。たぶん、痛いんだろうし、なにかを察知したんだろうな。
彼女が私宛てに遺言のようなカードを書いているのを隣で眺めていたら、寝不足もあってなんだか眠くなってきた。受け入れた……というのは本心みたいだなあって思った。隣にいても穏やかな気しか感じない。一文字ずつゆっくりゆっくり遺言を書いている友人を、ぼやっとベッドによりかかって見ているうちにうとうとしていた。
ほんとうに静かで時間が動いていないみたいな……。
背中の痛みが強くなってきたのか、顔をしかめるので看護師さんがやってきて「薬を多くいれますがいいですか? 眠くなってしまうかもしれないですけど……」と言う。
こうやって、だんだんぼんやりしてくるんだよな。うちの父もそうだった。意識の浅瀬にぷかぷかと浮いているみたいな。時々ふっと落ちていき、また浮上してくる。
「ほんとうに好き放題、生きてきて、いい人生だった……。自由だった……」
「なんか気になってることない? 手伝えることはある?」
「ない。すっきりしてる」
「そうか〜」
「……でも、わたしは自分の体を過信していた。身体を大事にしてこなかった。頑固だった……。自分の体をいたわって大切にするようにみんなに伝えてね」
「うん、わかった」
(そういう私も、もっと自分をいたわらなきゃなあ……)
そこに歯科衛生士さんが登場。念入りな口腔ケアが始まった。昔からお世話になっている歯医者さんの方だそうで、出張して来てくれるのだとか。一緒に手伝いながらプロの「お口のケア」の方法を教えてもらう。
「歯垢って、食べなくてもつくんですよ。雑菌の死骸なので」
「へー?そうなんだ?」
めちゃ丁寧な口腔ケア。気持ち良さそう。
「今度、私もクリニックの方に行っていいですか?」
住所を教えてもらう。
「らんちゃんに、ミカンあげて」
奥から大きなミカンが出てきた。
「あれ、これ不知火だ。水俣のデコポンだ!」
「無農薬でおいしいわよ」
「大好きなんだよね〜!」
「二個あげて!鳩サブレもあげて!」
結局、デコポンと鳩サブレをおみやげにもらって帰って来た。帰宅途中、近所のドラッグストアに寄って「口腔ケアセット」を購入した。
歯間ブラシはコレね、それから歯茎のマッサージ用のブラシと、ジェル状のはみがき、それと……ちっちゃな奥まで磨ける歯ブラシと……。
家に戻って、鏡を見ながら教わった通りにていねいに歯と歯茎のお手入れをしてみた。
(おー。だいぶ歯茎が痛んでいたようだ。歯茎をマッサージするとめっちゃすっきりして気持ちえーわー)
歯間の垢もとれて、口の中がすっきりすると、目や耳まで気持ちいいぞ。
病室で、足の指と指の間を拭いてあげた。これ、気持ちいいんだよな。お布団を整えたり、シーツの皴を伸ばすだけでも、気持ちいいんだよな。それを、自分に対してもしてあげなきゃな。
そのことをみんなに伝えて、と頼まれたので、伝えました。
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