年の瀬に

能登のSさんが、亡くなった。
今夜、息子さんという方からお電話があった。

11月の終わりに新刊を出版したので、ふだんごぶさたをしている懐かしい方々にお送りした。Sさんと初めてお会いしたのが10年も前になるだろうか。石川県の穴水町を訪ねたときに、冥王星の発見者であるパーシヴァル・ローエルの存在を教えてくれた。ローエルは不思議な人物で、冥王星発見に半生をかけていたが、自身は発見できず、冥王星を発見したのは弟子のトンボー博士だった。
ローエルの存在に興味をもって、そこからインスピレーションを得て「マアジナル」という小説が生まれた。2011年の震災の年に角川書店から出版した。

謝辞にSさんのお名前を載せた。「光栄です!」とたいへんお喜びになり、それから毎年、2月の頃に穴水の名物である殻付の牡蛎を一斗缶で送ってくださる。お礼の電話をすると、張りのある声で勢いよく話す。受話器から入れ歯が飛んでくるんじゃないかと思うほど。
今年の二月はなぜか、一斗缶が二缶も届き、一缶がおよそ5キロ。とても家族だけでは食べきれなくてご近所に牡蛎を配った。Sさんはどうして、二缶も送ってくれたのかしら、と不思議だった。

亡くなる直前までたいへんお元気にしていたそうだ。八月に三日間寝込んで、亡くなったという。93歳。大往生だ。

来年は送れないと予感して、今年、二缶を送ってくれたのではないか、家族でそんなことを語り合った。息子さんは私とSさんの付き合いはまったく知らず、新刊が送られてきたので、驚いたのだという。
新刊をお送りしてよかった。来年、2月に牡蛎が届かなかったら「どうしたのかな?」と不安に思うだろうけれど、まさかこちからご連絡するのは、まるで牡蛎を催促しているようで申し訳ない。
「本棚には田口先生の本がたくさんありました」
ありがたいことだ。遠くから応援してくれた方、これからは天から見守ってくださるだろう。

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by flammableskirt | 2016-12-29 20:59 | 新刊のお知らせ

作家 田口ランディの新刊・イベント情報・近況をお知らせします。 


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