やるべきことがわからない

「神様わたしは自分がなにをしたらいいのかわかりません」
と、皿洗いの若者が言いました。
すると神様が言いました。
「なにをしたらいいか考える必要はない。それはすでに与えてある」
「え、でも私にはなにかやるべきことがあるんじゃないでしょうか?」
「やるべきことはすべて目の前にあることだ。目の前にあることを真剣にやればいい」
「目の前には汚れた皿しかありません」
「それなら、それがおまえのやるべきことだよ。皿をていねいに洗いなさい」
この神様はいんちきだと若者は思いました。神様なら天命を与えてくれるはずです。
若者は就職情報誌を買って職探しをしました。
「どこかにやるべきことがあって、いつかそれが見つかる」
そう思って職を転々としました。でもなかなか自分がなにをしたらいいのかわかりませんでした。
やるべきことを探しているうちにずいぶん時間が経ってしまいました。
そしていつしか年をとって、病気になり、死が目前になりました。
「とうとうやるべきことが見つからなかったな……」
とかつて若者だった老人は思いました。
すると神様が来て言いました。
「やるべきことはすでに与えてある。目の前のものを見よ」
目を開けると家族がいて、老人の顔をのぞきこんでいました。
老人は、家族にむかってせいいっぱい、にっこりと微笑みました。
そして満足して、次の世界へ旅立ちました。
by flammableskirt | 2012-07-02 14:24

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