小田和正さんの歌詞の男性像
2012年 01月 15日
つい先日「言葉にならない」という曲を、偶然に全部聞いて、この曲が別れの曲であることを初めて知ったのです。CMでは、サビの部分しか使われていないので「感動で言葉にならない……」という意味に、単純に受けとっていました。でも、違ったのですね、とても悲しい歌詞だったんだ……と。
もう心は離れてしまったけれど、だけど、この人との出会いはほんとうにすばらしくて、自分にとってかけがえがない出会いで、たくさんのことを学んで、たとえ別れてしまっても自分にとってすごくすごくいいものだったんだよ、ということを相手に伝えたいんだけど、だけど、いろんな思いがこみあげてきちゃって、ああ、言葉になんかならないよ……という、すごくせつない歌だったんだなあ……と。でも、いい歌詞だなあと思いました。
それで、自分がどれくらい誤解してこの方の曲を聞いているのか確認したくなって「たしかなこと」という曲も、聞いてみました。これもCMに使われている曲なんですが……。やっぱりかなり誤解していました。この歌詞はたいへん意味深い歌詞でした。
大好きな人がいる、この人を愛している。だけど、いまいったい自分になにができるんだろうか……と、誠実に悩んでいる男性の心情を歌っているのです。安直に「君を幸せにする……」なんて言えない。たぶん、小田さんという人はとても精神的に成熟した人なんだろうな、と思いました。大人なんだな……と。それが歌詞に出ていました。だけど、この歌詞は若い子には通じないかもしれないなあ……、20代でこの気持ちがわかる人がどれくらいいるのかなあ……とも。
この歌詞のすごいところは、「一番たいせつなこと」というのは、平凡でありきたりな毎日の暮らしのなかで、相手に対する気持ちを静かにもち続けることだ、と言いきっているのです。この広い世界であなたと僕が出会ったこの不思議、自分はその意味を探して生きる……つまり、出会いを自分の生きる意味としてとらえなおし、それを問い続ける……と言うのです。
そして、相手がどんなに辛くても、自分には側にいることしかできない、と語ります。この人は、辛さや苦しみというのは、誰かが救えるものじゃなく、自分しか自分を救うことができないってことを、わかっているんです。だから安易に相手を「助けてあげる」と言わないのです。だけど、僕は必ずあなたの傍らにいるよ、そして、僕は僕の人生を誠実に懸命に生きていし、それが僕にとって君をたいせつにするということなんだよ、と歌っているのです(この歌詞はwoh wohでした)。
「どうして、あなたが一生懸命に生きることがわたしを大切にすることなのよ?」と、若い子なら疑問に思ってしまうかもしれないなあ……と思いました。つまり、小田さんはシンデレラストーリーみたいな恋愛を、幸せのゴールって考えていない人なんです。すごく大人なんですね。それぞれがそれぞれの人生を豊かに生きること、そのために二人が出会っている……と考えているんです。かっこいいなあ!でも、こういう男の人はきっと「わたしにこと好きじゃないの? 幸せにしてくれないの?」と言われると、困って黙りこんでしまって、誤解されてふられてしまうのかもしれません……。すごくいい男なのになあ……。
こんな素敵な歌詞とは知りませんでした、これぞ大人の男だ!と思ってしまいましたが、この素晴らしい歌詞もコマーシャルでは、切り取られて、なんとなく甘い子どもの男の歌のように感じられてしまうのが残念だなあ……と。
じつにシンプルに、この有限な人生のなかで本当に人を愛するというのがどういうことなのか……、語られていて、味わい深い曲です。
それに……「自分を大切にしてね」と彼女に語りかけるのです。たぶん、この曲のなかの彼女はなにかとても辛いことがあって、自分に自信を失い、自分のことはほったらかして仕事か、あるいは家族の問題とか、そういうことで手いっぱいなんでしょう。もしかしたら、被災地のボランティアに行って、自分の苦しみと他者の苦しみを重ねているのかもしれません。だけど、そういう彼女に、この男性は、自分を大切にしてください。あなたが、他の人のことを考えて思いやるように、それと同じことを自分に対してもしてあげてね……と、優しく語りかけるのです。ああ、わかってるなあ……。
ぜんたいに、小田さんの歌詞はどこか仏教的な感じがしました。無常観と慈悲が感じられるというのかな(三曲聞いただけで断定してますが)……。というわけで、わたしはあんがいと小田和正さんの歌が好きなのだ……ということに気がつきました。特に歌詞が奥深い。小田さん自身が、とても深い体験をされている方なのかもしれないですね……。