「祈り」を待つ日

滋賀でのアール・ブリュットの講演を終えて、家に戻り、ようやくしばらく家での時間を過ごせるようになりました。気がつけば11月も終ろうとしています。お芋を送ってくれたみよのさんにルームソックスを編みました。毎年冬になると、くつ下を編みます。今年の第一号……うっかりして写真を撮るのを忘れました。もう送ってしまったので、自分が編んだくつ下を、もしかしたら二度と見ることがないかもしれないです。

 「地震が来るから、お米をたくさん買ったんだ」と言っていたみよのさんが住んでいる浦河で震度5の地震がありました。心配になって電話をしたらご無事とのこと。アイヌの人の直感のよさにはいつも驚かされます。
 以前に、もう亡くなられたアイヌのおばあちゃんが「昔のアイヌは、みんな黙っていてもいつお客が来るのかわかったものだ」と言っていました。「なぜ?」と聞いたら「カラスが噂する」と……。実際に、人が訪ねて来るのがわかるようで、それが昔のアイヌ社会ではあたりまえだった、つまり、そういう直感力をみながふつうにもっていた、と聞いて驚いたのでした。

それもまた「繋がりあって生きている」ことを心身で実感している人たちだからなのかもしれない。私の身に起こることとあなたの身に起こることを、ひとつづきの命の問題として考える……。鳥の身に起こる事、魚の身に起こること……それをひとつづきの命の問題として考えるから、鳥や、魚からいろんな伝言を受けとることができるんでしょう。

そういう人たちを、私はとてもうらやましく思うけれど、中途半端な田舎の新興都市に育った私は、土地との結びつきなどとっくの昔に失ってしまっているし、いつも自分のことばかりに精いっぱいで、他の人たちに起こっていることが、自分に起こっていることと同じに感じて危機を察するような、そういう能力もあるとは思えない。こんなに身勝手な生き方が身についてしまってどうしたらいいのか、いつも途方に暮れるばかりです。

この「繋がりあったいのち」の感覚は「祈り」というものと深く関係していると思います。あなたとわたし、そして、鳥や魚や動物たちと自分がとても強く結びつき、自分一人が生きているのではなく、まわりの生き物と支え合って生きているから、自分一人が助かるということはありえない……という、この感覚に根ざしているのが「祈り」のような気がするのです。

わたしにはこの感覚がどうしても体感できないので、祈りということがわからなくて、ずいぶんといろんな場所に行ってはいろんな人たちに「祈りってなんですか?」「どうしたら祈ることができるんですか?」という質問をして歩きました。その答えがほしかったんです。答えがあると思っていたところが、いま思えば幼かったなあと感じます。でも、みんな良い人たちですから、そういう質問を受けても笑っていろんなことを言います。「ここでおいしく弁当を食べればいいんだ」と言われたこともあるし、「歌えばいい」と言われたこともあるし、「自分の言葉で祈ればいい」と言われたこともある。

このごろわかってきたのは、祈りというのも「祈ろう」としてするものではないのだ……ということ。祈りはわたしのなかからわきあがってくるある情動で、たとえば、人を愛してしまうことと近いかもしれない。愛そうと思って愛することはできないし、恋をしようと思って恋をすることはできない。そのような情動は、いつも自分の内側から勝手にわきあがってきて、自分はもうそこから逃れることができないもの。

祈り……というのも、そういうパッションであるように思えてならないのです。祈ろう……として祈れるものではなく、それは、もうその行為にとらえられ、祈りに連れ去られてしまうような、そのような「体験」そのもので、その「体験」のなかにあって初めて人は祈りを知るのです。祈りとはなにか……なんて、教えることはできないのです。それは、愛とはなにか、を教えることができないように。とても個別でありながら、とても普遍的な体験……。言葉を超えており、意識を超えており、内発的な衝動によって、意識が逆に掴まってしまうような体験、それが、祈りなんでしょう。

魚の悲しみ、鳥の悲しみ、動物の傷み、そして、周りの人たちの苦しみ。苦しみがわがこととして感じられるときに、人は祈りを体験するのかもしれない。祈りを、いったいこの人生で何度体験できるのだろうか……。
それも、私のはかりしるところではないのだけれど、私はいつも、それがやって来るのを待っています。
by flammableskirt | 2011-11-29 10:42

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