みよのさんのお芋。
2011年 11月 15日
みよのさんから、突然電話があった。
「北海道のふかざわだけど、覚えてる?」
「あーみよこさん!」
「みよのだけど」
「あ、そうだ、まちがった、ははは」
みよのさんは、北海道の浦河町に住んでいるアイヌの女性で、ずっと前に浦河べてるの家に行った時に知りあった。べてる祭りの時だったかな、浦河の保存会の人たちがアイヌの踊りや歌で歓迎してくれた。その時、みよのさんの踊りは、すごかったんだ。どういうのかな、風の精みたいに見えた。それで、声をかけたのがきっかけ。みよのさんと一緒に山に入っていろいろ話をした。みよのさんはすごく元気で、背は私くらい小さくて、飛ぶように山道を走る。自分では「私はへそまがりで憎まれものだから」と言う。確かに口は悪い。ものすごく辛辣で、つまり正直ってことだ……。どれくらい会っていないだろう、五年、いやもっとかな。たった一度、会って、二回くらい手紙を書いたかもしれない。
「あのさ、今年、ものすごく芋がたくさんとれたんだよ」
「へえ?」
「送るからさ、あの神奈川の住所でいいんか?」
「え、ああ、ほんと?うれしいなあ!」
「もうもうそりゃあたくさんとれてさ、うちの芋食べたらほかのは食べられねえから」
「楽しみだなあ、でも、なんで突然、思い出してくれたの?」
「いっつも、首飾り見てなんかお礼しなきゃなあ…って思ってたんだよ、芋を送ろうと思っていたんだけど…いろいろ忙しくてさ。今年はいい芋がとれたから、よっしゃ送ろうと思ってさ」
「そうかあ、うれしいなあ。私もね、いつもみよのさんのこと思い出してたよ」
「なんで?」
「なんでって、みよのさんの歌と踊り、かっこいいなって思ったから」
「私はうまくないよ」
「そうかな。でも私にとっては、すごくすてきだったんだよな。むっくりもつむじ風みたいだった。魂を感じた」
「あんた元気でやってんの?」
「元気だよ。みよのさんは?」
「元気だけど、もう年だからな。でも、歌ったり踊ったりしないと生きていけないから。なにかあると歌ってるよ」
「そうかあ…」
「あんた、福島とか東北に知りあいとかいる?」
「え、ああ、いるけど…なんで?」
「芋、送りたいんだよ。わたしは知りあいがいないからどこに送っていいかわからん。あんたの知りあいのとこに送るから住所をさ、手紙にしてよ」
「わかった、きっと喜ぶと思うよ」
「あのさ、寒の水って知ってる」
「寒の水?」
「1月の9日過ぎのころを寒っていうだろ、その時期に水をためるんだよ。そうすると寒の水はよ、一年経っても腐らないんだよ。昔からの言い伝えなんだよ。だから、来年になったらあんたは寒の水をタンクにためておきな。高い金だして水買うことないから、わたしも寒の水、貯めておいといたけど、一年経っても普通に飲める。だからいっぱい貯めてあるよ。米もな、玄米にして大目に貯めておきな、そしたらなんかあった時、周りの人も助けられっから…」
「うん…」
「まだ、これから大変なこと起るから、ちゃんと準備しとかないと。なんかあったとき、地震で亡くなった人たちが浮かばれないだろう? 自分たちが最初に犠牲になって、これから起ることを教えてくれてんだからなあ。そう思って、準備しとかなきゃ申し訳ないだろう」
みよのさんは、そう言って、無駄になるかもしれないけど今年は米を200キロ買ったと言った。そうしたら、近所の人たちにも分けてやれるからさ…と。
みよのさんたち、絶対に自分のことだけ考えないんだよなあ。
ほんとうにお金なくて質素な暮らしぶりなんだけど、芋がたくさんとれたら分け与えたいと思い、災害の備えは近所の人のことも考えて行うんだ。人と人は互いに助け合っているから生きていらる。人間は一人じゃ生きられない、その考えはアイヌの人たちにとってはあたりまえのことで、自分のことだけ考えていたらいつか死ぬと思っている。でも、そういう発想がわたしにはない。自分の家族だけがなんとかなればいいと、私は思っている。それなのに、みよのさんはこんなに遠くに離れている私のことも思って、一生懸命に何かを伝えてくれようとしていた。
「なんか偉そうに説教しちゃってごめんな!」
そう言って、がはははは!って豪快に笑って、じゃあね、と電話を切った。
たった一回だけ会っただけなんだけれど、私はみよのさんを絶対に忘れないし、時々思い出していた。人と人の繋がりってなんだろう。誰とでもというわけにはいかない。時空を超えて結ばれ合う人はごくごくわずかだけれど、確かにそういう人がいる。
みよのさんのお芋が届くの、楽しみだな……。
「北海道のふかざわだけど、覚えてる?」
「あーみよこさん!」
「みよのだけど」
「あ、そうだ、まちがった、ははは」
みよのさんは、北海道の浦河町に住んでいるアイヌの女性で、ずっと前に浦河べてるの家に行った時に知りあった。べてる祭りの時だったかな、浦河の保存会の人たちがアイヌの踊りや歌で歓迎してくれた。その時、みよのさんの踊りは、すごかったんだ。どういうのかな、風の精みたいに見えた。それで、声をかけたのがきっかけ。みよのさんと一緒に山に入っていろいろ話をした。みよのさんはすごく元気で、背は私くらい小さくて、飛ぶように山道を走る。自分では「私はへそまがりで憎まれものだから」と言う。確かに口は悪い。ものすごく辛辣で、つまり正直ってことだ……。どれくらい会っていないだろう、五年、いやもっとかな。たった一度、会って、二回くらい手紙を書いたかもしれない。
「あのさ、今年、ものすごく芋がたくさんとれたんだよ」
「へえ?」
「送るからさ、あの神奈川の住所でいいんか?」
「え、ああ、ほんと?うれしいなあ!」
「もうもうそりゃあたくさんとれてさ、うちの芋食べたらほかのは食べられねえから」
「楽しみだなあ、でも、なんで突然、思い出してくれたの?」
「いっつも、首飾り見てなんかお礼しなきゃなあ…って思ってたんだよ、芋を送ろうと思っていたんだけど…いろいろ忙しくてさ。今年はいい芋がとれたから、よっしゃ送ろうと思ってさ」
「そうかあ、うれしいなあ。私もね、いつもみよのさんのこと思い出してたよ」
「なんで?」
「なんでって、みよのさんの歌と踊り、かっこいいなって思ったから」
「私はうまくないよ」
「そうかな。でも私にとっては、すごくすてきだったんだよな。むっくりもつむじ風みたいだった。魂を感じた」
「あんた元気でやってんの?」
「元気だよ。みよのさんは?」
「元気だけど、もう年だからな。でも、歌ったり踊ったりしないと生きていけないから。なにかあると歌ってるよ」
「そうかあ…」
「あんた、福島とか東北に知りあいとかいる?」
「え、ああ、いるけど…なんで?」
「芋、送りたいんだよ。わたしは知りあいがいないからどこに送っていいかわからん。あんたの知りあいのとこに送るから住所をさ、手紙にしてよ」
「わかった、きっと喜ぶと思うよ」
「あのさ、寒の水って知ってる」
「寒の水?」
「1月の9日過ぎのころを寒っていうだろ、その時期に水をためるんだよ。そうすると寒の水はよ、一年経っても腐らないんだよ。昔からの言い伝えなんだよ。だから、来年になったらあんたは寒の水をタンクにためておきな。高い金だして水買うことないから、わたしも寒の水、貯めておいといたけど、一年経っても普通に飲める。だからいっぱい貯めてあるよ。米もな、玄米にして大目に貯めておきな、そしたらなんかあった時、周りの人も助けられっから…」
「うん…」
「まだ、これから大変なこと起るから、ちゃんと準備しとかないと。なんかあったとき、地震で亡くなった人たちが浮かばれないだろう? 自分たちが最初に犠牲になって、これから起ることを教えてくれてんだからなあ。そう思って、準備しとかなきゃ申し訳ないだろう」
みよのさんは、そう言って、無駄になるかもしれないけど今年は米を200キロ買ったと言った。そうしたら、近所の人たちにも分けてやれるからさ…と。
みよのさんたち、絶対に自分のことだけ考えないんだよなあ。
ほんとうにお金なくて質素な暮らしぶりなんだけど、芋がたくさんとれたら分け与えたいと思い、災害の備えは近所の人のことも考えて行うんだ。人と人は互いに助け合っているから生きていらる。人間は一人じゃ生きられない、その考えはアイヌの人たちにとってはあたりまえのことで、自分のことだけ考えていたらいつか死ぬと思っている。でも、そういう発想がわたしにはない。自分の家族だけがなんとかなればいいと、私は思っている。それなのに、みよのさんはこんなに遠くに離れている私のことも思って、一生懸命に何かを伝えてくれようとしていた。
「なんか偉そうに説教しちゃってごめんな!」
そう言って、がはははは!って豪快に笑って、じゃあね、と電話を切った。
たった一回だけ会っただけなんだけれど、私はみよのさんを絶対に忘れないし、時々思い出していた。人と人の繋がりってなんだろう。誰とでもというわけにはいかない。時空を超えて結ばれ合う人はごくごくわずかだけれど、確かにそういう人がいる。
みよのさんのお芋が届くの、楽しみだな……。
by flammableskirt
| 2011-11-15 13:28

