信じられない偶然


生きていると信じられない偶然というものがあるものだ。
おとといの金曜日、明治大学でダイアローグ研究会に出席。会が終ってから一人の女性に声をかけていただいた。
「ボブサムはまだ日本にいるんですよ」と彼女は教えてくれた。
ボブサムは、アラスカのクリンキッド族の神話の語り部であり、精神的リーダーと呼ばれている男性。龍村仁監督の「ガイアシンフォニー」という映画に登場したことで、日本で彼を知っている人は多い。私も映画を観て彼のことを知った。確かもう十五年以上も前だと思う。すごい人がいるものだなあ……と思った。

その彼と初めて会ったのは、2000年の秋で場所は広島の平和記念公園だった。
私はアシリ・レラさんのイベントに同行して彼女といっしょに元安橋を渡っていた。橋のちょうど真ん中でボブサムと会った。レラさんとボブサムは少数民族同士、魂の兄弟のようなものなのかな。とても仲が良いらしく二人は抱きあって挨拶をしていた。
私はその隣にぼんやり居ただけで、特に会話もしていない。

そして、それからさらに十年が経過した今年、山尾三省さんの記念イベントがあり、シンポジウムで、鎌田東二さん、宮内勝典さん、私で鼎談をした。そこにたまたま来日中だったボブサムも加わり、クリンキッド族に伝わる神聖な場のための祈りを語ってくれた。
イベントが終ってから、親睦会になり、たまたま私の隣にボブサムが座った。しかし、私はボブと何をしゃべっていいのやらさっぱり見当もつかない。きっと下ネタなら世界共通だろうと思い、ボブに「ねえねえ、蛇のセックスって見たことある?」と聞いてみたいのだ。ボブは、見たことがないというので、私は蛇のセックスがどんなに凄いものか説明した。そうしたら、いつもあまり表情を変えないボブがわははは!と大笑いしたのでなんだかうれしくなってしまった。やはり下ネタは世界共通なのだと確信した私は、
「私はアザラシに犯されそうになったことがある」
と、アザラシにチンポを立てられ迫られた時の話しをしたら、また大受けであった。
ボブもナメクジや、シャチのセックスについて教えてくれた。
それでまあ、私たちはなんとなく意気投合して別れたのだった。

ボブはとっくにアラスカに帰ったと思っていたけれど、まだ日本にいたんだ。
それで、ボブの知りあいという女性に「ボブによろしく伝えてください」と言ったのである。

翌日、私は友人の宮内勝典さんのお宅に遊びに行くために、ホテルを出て吉祥寺に向った。宮内さんは井の頭公園の近所に住んでいる。吉祥寺から井の頭線に乗り換えて井の頭駅に降りると、宮内さんが改札で待っていてくれた。それで、二人で連れ立って宮内さんのお家に向って歩いていると……、住宅街の路地をぽこぽこと歩いてくるジャージ姿の男性とすれ違った。向こうがじっと私を見ているので、私も「あれ?」と彼の顔を見る。
なんとボブサムだった。
びっくりして、お互いを指さして私たちは思わず抱きあってしまった。
「ゆうべあなたの友達と会って、あなたの噂をしたのよ」と言うと、
ボブはこう答えた。
「僕は今朝、あなたとコンタクトをとろうとしたんだよ」
「じゃあ、すごい偶然だね。まだ日本にいるんなら私の家に遊びに来る?」すると彼は、
「行きたい」と言う。
「じゃあ、家に戻ってからメールするね!」と言って私たちは別れた。
ボブはこの近くのお宅に滞在させてもらっているらしい。しかし、いったい朝11時半にどこへ行くつもりで歩いていたのか、彼は手を振りながら駅の方へと歩み去った。
宮内さんと私は「ほんとうに、すごい偶然だねえ!」とちょっと興奮した。
それから、少しして夫から電話があった。
「あのね、ボブサムという人から留守録に電話が入っていて、会いたいから連絡してって言ってる。電話したほうがいいんじゃない?」と言う。
「えー?その人にいま会ったばかりだよ、その留守録はいつ入ったの?」
「10時45分だよ」
……私がボブとすれ違ったのは11時40分頃である。ということはボブは私に連絡をして1時間後には本人と会って、用件も済んでしまったということだ。
私が宮内さんのところに行くことはtweetしているが時間までは書いていない。宮内さん以外誰も知らない。なんで、道の途中にボブが歩いているのか、そういうことってありえるのか、いやありえるから会ったわけなんだか、にわかには信じ難かった。

宮内さんは、すごく感心して「やっぱりシャーマン同士は話が早いね」と言う。
いや、私と連絡を取りたかったのはボブサムのほうだから、言うなればこれは彼の意志に沿って起こった偶然なのである。それにしたって、あんまり偶然なのでびっくりした。
きっとボブサムは下ネタの続きをしゃべりたかったんだな、と私は思った(笑)
by flammableskirt | 2010-12-04 14:17

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