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ゴム手袋の撮り方

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私は写真が下手だ。だから、写真は撮らない。旅行に行っても写真は撮らない。なにを撮っても目で見た以上のものは撮れないし、とにかく自分の撮った写真がつまらなくてうんざりする。

少なくとも写真の好みはある。よいと思う写真はある。すごいと思う写真はある。写真が好きである。写真を見るのは好きである。だから撮ろうと思った時もあったが、あまりに自分が写真下手なのですぐにいやになった。

先日、四谷で天才写真家細江英公さんにお会いしたとき、細江さんのところにアメリカ人の写真家が写真をもって来ていた。私は細江さんが彼の写真を見ている隣に座っていた。一枚一枚、写真を眺めつつ、細江さんは独りごとをもらす。
「ああ、いいテーマだねえ。こんな面白いものがあるのに、なんでこんなにつまらなく撮るかなあ。この犬、この人間、いいのになあ……つまらないねえ」
私はその写真を見た。確かにつまらない。つまらないということはわかる。だが、細江さんにはどうすれば面白い写真になるのかもわかっているのだ。
さらに、写真をながら細江さんは呟いた。
「テーマはいい。テーマはおもしろい。でも表現が弱い。もったいないねえ」

細江さんが一人になったとき、私は思わず聞いてしまった。
「あのお、強い表現をするためにはどうしたらいいんでしょうか?」
我ながら子どもみたいな質問だと思ったが……。細江さんは「ん?」と私の顔を見た。細江さんは、相手の名前も覚えられないくせに、相手がなにを聞きたいのかは一瞬でわかる人だ。
「強い表現をするためにはどうしたらいいか……これはね、難しいんですよ……」
少し間を置いてから、
「対象をよく見ることだね。まず、対象をよく見て、どうしたらこの対象を表現できるか考える。深く考える」
でも……と、口には出さねど思った。細江さんはいつも考えていないじゃないですか。瞬間、瞬間、撮っているじゃないですか。その撮った写真はなぜいつも、あんなに強い表現となるんですか。やっぱりそれが天才ってものでしょうか……。それとも、細江さんだけの回路で考えているのかな。スーパーコンピュータみたいに。
「いいものを、たくさん見ることですよ。なにがいいのか、身体がわかるまでいいものをたくさん見ることです。まず、見なかったら、わかりませんから」
写真を見る機会は、この10年間、とても増えた。たくさん見ているかと言われたら自信はない。

すごく天気が良かったので、ゴム手袋を干した。その手袋がひらひらするのを見ながら、じっと見ながら、いったいこのゴム手袋をどう撮ったら強い表現になるのか、しばし、考えてみた……。が、やっぱり、わからない。
細江さんならわかるのか。あるいは、すでにテーマの設定からしてダメなのか(笑)

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by flammableskirt | 2010-06-10 15:02