雨が降りました

久しぶりに角川書店の方たちがやってきて、打ち合わせの後いっしょに食事をした。野性時代の編集長の吉良さんとは、デビューした2000年に出会って、かれこれ10年のつきあいになろうとする。当時、吉良さんは編集者になって三年目だった、とのこと。私も駆け出しの作家で、あれから10年が過ぎるというのが信じられない。光陰矢の如しと言うけれど、ほんとうに瞬きするような間だった。

20歳から30歳への10年間はやけに長かったように感じる。30歳から40歳もそれなりだったが、40歳から50歳というのは、まるで夢のようだ。そしてこの10年間が一番自分に正直で、自分の気持ちを大切にした10年だったようにも思う。頑固さを捨てて自分に正直になるのに40年が必要だったということか……。吉良さんの風貌に、年輪を感じる。いい年の取り方だなあと思う。男の人はうまく年がとれていいなと思う。

和太鼓奏者の亥士くんが遊びに来て、大将と花のおうちでギョーザパーティをすることになった。巻上公一さんがギョーザの皮のタネをもってきて、みんなで皮にのばして具を包む。具は三種作ったが、私はなんと塩を入れ忘れてしまった……。焼いて食べてみたが、一瞬、みんなが無言である。
「あれ……なんかたりない?」と言うと、すかさず巻上さんが「塩だよ」と言った。
「塩、忘れた……」ショックである。
しかし、巻上さんが他のギョーザも食べてから「塩がないのもそれなりに素朴でうまいよ」とフォローしてくれて、ときどき優しい巻上さんにほろりとする。食後、巻上さんにボイストレーニングを受ける。
「変な声を出さないと、咽の使ってない筋肉が動かないんだよ」
「使ってない筋肉?」
「それが動かないとホーメイはできないよ」
と言われて、みんなで変な声で叫ぶ。でも変な声というのは案外難しいものだ。

話は前後してしまうが、先週末は「風の旅人」の新年会があり、湯河原温泉に泊まって、小栗康平さんや、本橋誠一さん、編集長の佐伯さんや前田英樹さんといっしょにぐだぐだと飲んだ。

水俣の由美ちゃんから、手づくりのプレゼントとデコポンと石鹸が届く。ありがたい。写真家の大西さんから、大西さんが作った大根が届く。特に干し大根が絶品にうまい。天日干しの力に改めて脱帽。

10人の人間がいれば、10人の人生があり、みんな問題を抱えている。家族のこと、仕事のこと……。でも、それはそれとして、粛々と生きているわけで、他人の人生には関われないし、もし役にたつことがあったとしたらそれは奇跡であり、めったにないことであり、祝福である。多くの場合、他人はなにもできない。

でも、私は他者を必要としている。みんなのためになにもできないが、私にはみんなが必要だ。みんな、いてくれてありがとうと思う。
私はすごく助けられています。

いきなりだが、来週から能登に取材旅行に行くことになった。
by flammableskirt | 2009-01-30 12:28

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