百万回の永訣

昨年亡くなった柳原和子さんの「百万回の永訣」の文庫化にあたり、その解説を執筆している。そのため再読しているのだが、柳原さんの文章はうまい。実に端的で、明解で、しかもセンスがいい。彼女が書いた小説を読みたかった、と改めて思った。
線を引きながら読み返しているのだが、ここかしこにひっかかる。
「優れた専門家は素人の突飛なアイデアに好奇心をもつものだ……」というような記述があり、ほんとうにそうだなと思った。他人のアイデアに好奇心をもつ人はおおむね、余裕のある人だ。たいがいの人は自分の自己主張と自己防衛に必死であり、もちろん、私もその一人だ。耳が痛い。
柳原さんは、いつも他人の話に好奇心をもっていた。そういう彼女を、私は品がいいと思った。
世間一般と「品」の使い方が違うかもしれないが、私にとって彼女は品格をもった人物だった。
人間の浅ましさをよく知っており、それを軽蔑したりすることなく、距離を置いてじっと観る人だった。そういう人を私は品がいいと思う。
彼女の品位に裏打ちされた文章は、ぐろぐろのがん闘病記であるのにどこか清々しく、いまこの人と会いたくても、会えないという事実に驚く。
人が死ぬということは、二度と会えないということなのだ。
だが会えないからと言って、会話できないわけではなく、死者はいつも、ちゃんと質問に応えてくれる。私が相手と私の間に存在するように、相手も私と相手の間に存在しており、そう簡単に消えたりしないようだ。
by flammableskirt | 2009-01-23 16:52

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