年末雑感

今日も朝からほんとうに素晴らしいお天気で、家の二階の窓から初島の向こうの大島までよく見えました。我が家は湯河原の海岸から歩いて2分くらいのやや高台にあります。夜は潮騒の音が聞こえます。今朝は空気がきれいなので、モモと海岸を散歩したら、近所のおじいさんが岩についたハバノリをとっていました。乾燥させて餅にまくとおいしいんですって。海は凪いでいて、空は真っ青で浜千鳥が遊んでいました。
 海岸から千歳川という清流の河口に出て、そこから私の仕事場のマンションはでは歩いて5分くらいです。マンションは海に近いですが、私の部屋からは山しか見えません。でも山も青々としてとてもきれいでした。このマンションは去年まで父が住んでいたのです。今年リフォームして、床に吉野の檜を敷きました。生木なので真っ白でやわらかくてとても気持ちいいんです。ほんのり檜の匂いがします。植物に水をあげながら窓の外を眺めていたら、近所の公園で子どもたちがたこあげをしていました。スポーツカイトっていうのかな、きらきら光ってUFOみたいだった。

人間ってのは、記憶でできてるのかなあ、と思うときがあります。私は私の記憶の集大成としてここにある。でも、覚えている記憶なんてほんのわずかで、たぶん私を構成しているのは日々の取るに足らない出来事、私が忘れてしまって思い出すことも意識することもない記憶、そういうものでほんとうは成り立っているんじゃないかと思う。私はどんな日々を積み重ねて、記憶を作ってきたかな、って思う。それを振り返るとき、子どもが生まれたことにほんとうに感謝してしまう。モモが生まれてからの人生は、かけがえのないような小さなこんぺいとうみたいなきらきらした記憶の積み重ねだった。あの子が私の人生の質そのものを変えてしまって、私の中味もそれによって少しずつ変っていったと思う。親や兄からの暴力とか、そういうものも含めて全部、私のなかの暴力をモモが浄化してしまったように思う。人間はみんな赤ちゃんとして生まれてくるけど、生まれてくるという、そのことだけですでにものすごい働きをしているんだって、感じた。私が小説を書いて自分の人生の一番暗くて怖い部分と向きあうことができたのも、モモがいてくれたからだ。でも、そのモモも、もうすぐ離れて行ってしまうんだよね。だんだん大人になってる。ちょっと淋しいです。

私の人生の多くの時間はほんとうにくだらなくて、時間をティッシュのように浪費して、鼻をかんだり、うんちをふいたり、そういうただもう淋しさを紛らわす汚物処理だけに使ってきた。でもまあ、案外人生とはそういうものかもしれないと最近思う。人はほんとうに多くの時間を自分の感情処理のために使う。でもそういう膨大なティッシュの消費によって、わかったことがあったのかもしれない。適切な感情処理の仕方というもの……。相手を苦しめる妄想や、相手を愛する妄想、あるいは愛される妄想、そういう妄想をいくら積み重ねても妄想の強度が増すだけで、現実にななんの役に立たないことや、怒りによって時間が止められてしまうことなど。

今日はマクドナルドのバイトの数が足りなくて、カウンターのレジは一つしか稼働していなくて、たいして混んでもいないのにレジは長蛇の列で、一人のバイトの女子が、くるくるコマネズミのように動き回っていた。そのコマネズミをじっと立って眺めていたら、なんだかレジに入って働きたくなった。混んでいるファミレスでもそうだ。自分で働きたくなる。てきぱきと客をさばいて、みんながニコニコする顏を見たいという欲望にかられる。これはなんだろうか、若い頃、サービス業をやりすぎたせいか。

マクドから「スマイル〇円」が消えていた。私が若い頃には本気で笑顔の練習をしているバイトがいっぱいいて、笑顔コンテストなんてのもあったらしい。笑顔はもうウリじゃないんだな、安さがウリなんだ。バイトの子の目は吊り上がっていたし、いまは「ポテトはいかがですか?」などとよけいな事は言わない。作り笑いより、無愛想なほうがほっとするのはなぜかな。あんなアメリカ的なウソに、みんな騙されていたわけじゃないと思うぞ。なんか変だと思いながらまあ、こんなのもありか……と珍しがっていただけなんじゃないかな。
ミエミエのわざとらしいものが、こそげ落ちて行く。それはそれで気持ちいい。私はいまの時代をそれほど嫌いじゃない。ハリボテだったものは、みんな崩れていく。
一度、更地にならないと、次に何が生まれるかわからないものだし。
by flammableskirt | 2008-12-27 19:53

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