クリスマス

すばらしい晴天になった。
いつもの窓から見える風景が、外国のように見える。
それくらい空気が澄んでいるんだ。
なぜか、ラダックを思い出した。ラダックの空気だ。今日はそんな日。

20代、30代の頃、クリスマスに予定がないとほんとうに悲しかった。
そして淋しかった。自分が取り残されたような気がした。
みんなが幸せで自分だけ不幸な気がした。
だからクリスマスは友達と騒いでいなければいけなかった。
この日は誰かに必要とされていないと自分に価値がない気がした。

だけど、いまは違う。ぜんぜん平気だ。
こみあう店や街などに興味もない。プレゼントも欲しくない。
そういうことではなく、もっと別のことに関心があり心を寄せている。
ああ、こういうこともあるんだ。生きてみなければわらない。
クリスマスを一人で過すことになんの淋しさも悲しさもない。
すがすがしく、空を見て、きれいな空気だと思っている。
そして懐かしくラダックを思い出している。
ああ、よかった淋しさで死ななくてよかった。あれは一時的なものだったんだ。
あの狂気のような人恋しさや、むなしさは永遠じゃなかったんだ。
もう誰にも合わせなくていいんだ。
私は私でいいんだ。そんなことは本には書いてあったが、実感できるなんて、
想像もできないほど淋しかった私が、
他人がどう生きようが関係なくここに安心して堂々と存在できるなんて、
すごいことだと思う。20代の自分から見たら奇跡だ。
世の中がクリスマスだろうとなんだろうと、関係なく、
そんなこととは関係なく会いたいときに会う友達がいて、いつもそばにいる家族がいる。そういうことをまったく信じられなかったけれど、
現実に、私が人生で獲得してきた信頼と安心が、
いまこの空間に満ちていて、私は落ち着いているぞ。クリスマスなのに予定もなく、
ぼんやりしているこの時間にほっとしている。
まったく信じられないことだ。
あんなに、クリスマスが大好きで、はしゃいでいて、淋しくて、誰よりもクリスマスを楽しく過さないと人生に意味がないとまで、焦り、そわそわし、不安で、混乱していた私が、平然となんでもないように今日を過しているのだ。
この姿を20代の私に見せてやりたい、プレゼントをものほしそうに見つめていたあの自分に。誰でもいいから男とデートしたいと思っていた自分に。他人の幸せばかりうらやましがっていた若き自分に。
うーん、すごいことだ。
年をとると、ほんとうにどうでもよくなるんだ。他人にことは。

今日、一人で、予定もなくものすごく淋しい人にメリークリスマス。
どんなに人といっしょにいても淋しくてむなしかった。かつて、若いころ。なにをやっても満たされなかった。どんなに騒いでも、なんだか、淋しかった。取り残されたように辛くて。
いまも淋しくはあるが、人のことはどうでもいい。人の幸せと比べて不幸になんかならない。
おばさんになるとほんとうに気楽だ……。
by flammableskirt | 2008-12-24 11:45

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