依存症的生活実感

ある文芸誌に、50枚の短編の約束をしたのに勢い100枚を書いてしまい、それでも全然終わらない。編集者も困っていて申し訳ないのだけれど、春になって暖かくなると気分的に不安定になるため、現実逃避で執筆依存症になる。なにかしら書いていれば他のことを考える余裕がないので、ひたすら書くようになる。
私の父はアルコール依存症だった。依存傾向を遺伝的にもっていることは若い頃に気がついていた。やはり自分はどこか過剰で、勢い余ってよく人生街道から転げていたからだ。父のアルコール依存症を通して、依存症にはほとんど治療方法がないことを知った。一度、アルコール依存になったら、二度と酒を飲まないという選択しかない。つまり、酒を飲まない酒依存症として生きていくだけである。そして、酒を飲まない方法として、別のものに依存するのは有効な手段である。
依存傾向が強い人間は自分にとって最も害がなく、しかも実益が伴うものに依存の上書きをするのが得策であり、私の場合は執筆に依存するのがサバイバルの現実的な手段として有効なのは誰の目にも明らかだ。
というわけで、春は憂鬱であるので依存傾向が強くなり、書かずにはおれなくなって、むやみやたらと書いてしまうし、書くことでしか安定できないのである。特に今年は、気分的に不安定で、不安定だと仕事が安定するという、依存症にとっては最も幸せな循環を作ってしまっているため、いくらでも書けてしまうのだが、依存症なので歯止めが効かないのである。
こうなってくると、もうどこでもいいから書きたいし、来た仕事は全部受けてしまうし、ネットにだって、ブログにだって、ほらこのようにどんどん書いてしまうのである。まさに依存症の本領発揮であり、よって今年はすでに六冊も出版が決っており、これは依存症の悪化を意味すると同時に、収入の安定を意味する。それでも、まだ書きたいし、書くことに依存しているから書けないという状況はありえないのである。
春が去り、初夏が来て気分が安定し、依存症がおさまってしまった時に、目の前に原稿締め切りのハードルが地平線まで続いているような事態だけは避けたいので、受けたものはすぐ書く。夜中にハムスターが、ひたすらエネルギー消費のためにのに回し車を回している姿を見ると、あれは私だなと思うのである。
by flammableskirt | 2014-03-01 14:24

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