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by flammableskirt
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暮れていく、暮らしていく。

「暮れる」ということばにつかまってしまいました。
きのうの夕方、ぼんやりと外を歩いていて「ああ、今日も暮れていくなあ」と思ったとき、ふと、暮れるって、不思議なことばだなと思ったのです。
暮れるって、どういうことだろう。
陽が落ちて暗くなっていくことだと思うのだけれど、このことばには、なにかこうとても温かな響きがあるように感じる。
「暮れなずむ」という表現があるけれど、暮れなずむ町って、どんな町だろう。イメージとしては浮かぶのだけれど説明がうまくできませんし、説明するととてもつまらない感じがします。
「暮らす」と「暮れる」はとても似ています。じゃあ、暮らすってどういうことなんだろう。暮れていく日々を受け止めて生きることなのかな。
もし「暗れる」「暗らす」だったら……ずいぶんみじめな感じがします。
「暮らし」というのは日々の生活だけど、これが「暗し」だったら、ちょっと悲しい。だけど、暮れるということばには、暗くなっていく様が確かに感じられるから、暗くなる……ということを、別の視点から見たことばが「暮れる」なのかな。
 一日が終って暮れていくとき、ほっとします。暮れるということばのなかには「さあ、夜の休息の時間になりますよ」という、なぐさめが含まれている。途方に暮れる、という言葉は「どうしていいかわからないので、ちょっと一休みしている」みたいな感じがある。
 夜の闇は、ただ恐ろしいのではなく、孤独なのではなく、ぼんやりとした世界に人を包み込んでくれて、そこには、意識の届かない眠りがあり、眠れば夜は明ける。暮れるというのは、意識が夜の世界の休息に入っていく感じがある。
 「暮らし」というのは、そういう休息の状態を大切にしながら生きることなのかなあと思う。ただがむしゃらな生活ではなくて「暮らし」と言われたときに、なんだかふっと肩の力が抜けるのは、この言葉が夜をとても優しいものとして含みこんでいるからなのかな。
 明るいと比べてしまうと、暗いというのはどちらかと言えば否定されてしまいがちなことばだけれど、暮らしというのは「暗い」ことの優しさを教えてくれている感じがある。ぴかぴかの明るさが作る影は濃い。でも、うすぼんやりした暗さというのは、心が落ち着く。そういう落ち着きのなかで、生きていく生活を「暮らし」というのかもしれないなあ。
 そんなことを考えて、昨日は暮れていき、そして今日も……。
by flammableskirt | 2012-02-23 13:03