京都から広島、旅の思い出
2011年 07月 22日
この旅でも、いろんな方にお会いしました。作家の辻仁成さんとは、昨年三月にパリでお会いしました。パリ、モンマルトルのアルサン・ピエール美術館における「アール・ブリュットジャポン展」の大使館でのレセプションで短い挨拶を交わしたことがきっかけになり、お互いに「対話」という問題を考えていることを知りました。それで、それぞれが企画している「人間塾」「ダイアローグ研究会」に協力しあおうということになったのです。
作家の友人がほとんどいない私には、辻さんとの会話はとても新鮮で楽しかったです。辻さんはすでに20年も作家を続けている大先輩なので、いろいろ勉強になりました。なにより、映画に、舞台に……そしてさらに、対話のための塾まで創ってしまうという、幅広い活動を知って、辻さんに対するイメージはとても大きく変わりました。けっきょく人は、創られたイメージで相手を見ています。私もそのように見られています。それは、時としてむなしいことであります。でも、自分も同じことをしているわけですよね。生の出会いってほんとうに大切だと思うし、年をとってきたせいか、生以外の人との接触をあまり望まなくなってきました。辻さんとの出会い、いろんなことを考えるよいきっかけになりました。辻さん、ありがとうございました。
広島に移動して、家族といっしょに私が大好きな広島のお好み焼き屋さんに行きました。そこはパルコの裏にある「元祖おこのみ村」の2階の「源蔵」というお店です。私は10年前に初めて広島のお好み焼きを食べた頃からずっと、このお店のお好み焼きの大ファンで、広島に行けば必ず寄ります。ここのお好み焼きは特徴があります。まず、すごく「麺」がおいしい。特に「そば」がいい。広島お好み焼きには「そば」とか「うどん」が入っているのです。この麺が、ここのはほんとうにいい感じなんです。味はものすごくさっぱりしているので、2,3枚くらい食べられそう。すごく品のよいお味で、なんだか妙に次も食べたくなるのです。とはいえ、めったに行かない旅行者の私のことなど、忘れているだろうから、お店に入っても挨拶もしませんでした。
この10年間、変わらずに鉄板の前に立ってお好み焼きを焼き続けている青年がいます。ほんとうに無口な人ですし、なんのお愛想もいわずひたすら黙々とお好み焼きを焼き続けているのですが、彼には鉄板の美学のようなものがあり、私は彼が大好きでした。とても背の高い大柄な人で、動きが機敏で、見ていて楽しいのです。この店の鉄板がほんとうにぴかぴかにきれいでそれも好きです。
食べて、帰ろうとした時に、青年が「写真ありますよ」と私に言いました。10年前にこの店に来たときの私の写真が壁に貼って在りました。お客さんの写真、いっぱい貼ってあるんです。「よくわかりましたね!覚えていてくれたんだ」と言ったら、ちょっと照れたふうに笑っていました。たったそれだけのことなのですが、なんだかとてもうれしくなって、自分の家族をお店の方に紹介しました。初めてここに来たとき、娘はまだ……4歳くらいでした。この10年、彼はずっとここでお好み焼きを焼き続けているんだなあ。次に来たときも会えるといいなあ。そう思います。お店を続けるってすごいことです。私いつもそう思うのです。なんだか、ここに来ると元気が出るのは、彼らがお好み焼きを焼き続けているから。それも変わらないクオリティで!それってすごいことだと思うんです。私もこれから10年、変わらず小説を書いていけるかなあ。そうありたいなあ、なんてことを思ったり。
広島大学では若い学生さんたちと、とてもいい対話ができました。先生方も質疑に参加してくれて、世代を超えた議論ができたことは有意義でした。対話はあとになってからじわじわきいてくるもの。あれから、みんながどういう思いを育てていくのか、それをまた見に行きたいなあと思いました。
今日は台風一過の晴天、北の高気圧のおかげで高原のような涼しさです。これから仕事のリズムを取り戻さなければ……。