平田オリザさんの発言について
2011年 05月 21日
この話題をある友人としていて、私は「平田さんの言っていることは事実だと思う」と言いました。
「事故当初から、なぜかアメリカは今回の原発事故への、世界世論を煽るような発言をしていたように感じています。それは、アメリカ人と日本人の危機管理意識の違いだと指摘されもしたけれど、果たしてそれだけだろうかと思っていたんです。アメリカは今回の福島原発事故をきっかっけにして、日本を原発推進から脱却させようともくろんでいる気がします」
すると、その友人はこう言いました。
「私は、平田オリザさんは確信犯だと思う。彼はすべてをわかっていて、それを報せるためにわざと、失言を装って発言したのではないか。この、平田発言によって、アメリカが何を考えているかは中国にも、韓国にも、たぶんアジアの国にはわかった。そして平田さんは、韓国にも『あなたたちだって同じことをされるんだよ』と言いたかったのだと思う」
それを聞いて、私は「なるほど……」と思ってしまったのです。
あくまで仮説です。あくまで与太話です。だから、ああ世の中にはそういう考え方をする人もいるのだな、と思って聞いてください。
アメリカ政府の情報操作が成功して、核アレルギーだった日本に原子力発電が導入され、原爆のイメージがクリーンな未来エネルギーにすり替えられ、反対意見はイデオロギーの対立構造を利用して封殺した……という話を前回「対立について考えてみよう」で、しました。
今回、アメリカは日本に新しいものを売りつけるチャンスなのです。原子力に代って、今度は「廃炉」の技術と、自然エネルギーの技術を日本に押しつけて日本からライセンス料を取り、さらにこれから何十年間、日本の原子炉を壊し、処理していくための莫大な予算がかかる公共事業になんらかの形で参入し、日本で新たな核ビジネスを展開しようとしていることは明らかであると思います。
このゴールデンウィーク中に各国のソフトエネルギー関連の要人が来日しました。日本が脱原発に向けて舵を切りつつあるのは明らかです。そこで新たな自然エネルギーの市場が誕生します。そこにいち早く乗り込んで利益を得ようと思うのは資本主義の世界では当然のことでしょう。ですから、これから自然エネルギーに関する発言をしている方たち、研究をされている方たちはちょっとしたバブルでしょう。たくさんの外資から、お金が入ってくるはずです。
ルートはさまざまでしょう。でも、原発が導入されたときもそうでした。複雑なルートを経て、いろんな方面から「推進派」にお金が渡り、利益がもたらされ、そして関係者たちは自分が知らない間にいつのまにか、すっかり原発推進に利用させられ、そういう発言を繰り返していたのです。また、その発言をメディアが後押ししたので、自分は正義を行っていると錯覚もさせられました。
たぶんまた同じ現象が起こるのではないでしょうか。そうやって、自分としてはアメリカに加担しているつもりはなくても、宣伝マンにされているということは、この国では頻繁にあるのです。
原発に反対し、自然エネルギーの利用を唱えていた人たちは。これまで社会的にはやや冷遇されていました。発言をしてもあまり受け入れられない悔しい思いをしてきましたから、社会が自然エネルギーに動くとなればたいへんうれしく感じることでしょう。
もちろん私も原発には反対の立場であります。新規建設の停止。段階的で計画的な廃炉へ……というのがかねてからの希望でした。ただ、なんとなくそれをアメリカの思惑に誘導されつつあることが、気分として釈然としません。どうにも詐欺にあっているようなイヤな感じなのです。
導入もアメリカの思うまま。さらに廃炉もアメリカの意志で操作されて……というのでは、あまりに情けない。せめてこの決断は自分たちで……と思うのですが、基本的な方向としては賛成なので複雑です。ただ、また日本の税金を海外に吸い取られると思うと暗澹とした気分になります。
これから日本の復興、エネルギー政策の転換に向けて、莫大な既得権益が生まれることは間違いありません。膨大なお金が動きます。とてつもない長期に渡る大公共事業の幕開けです。そこにはいつも謎の黒幕の影があります。それはなぜでしょうか……。
ただ、これまでと一つ違うことがあります。3.11以降、もう、イデオロギーの対立構造にもっていくことはできません。事故が対立軸などという虚構を吹っ飛ばしてしまいました。現実が露呈しました。ですから、私もこうして発言できるのです。アメリカを批判しても社会主義者とは言われません。刺されたりしません。そういう時代になったのです。
私は、平田オリザさんが、うっかり発言してくれたことの重みを自分で受け止めていかないと……と思う。これを失言問題などという低レベルの議論にすりかえてはいけないと思う。韓国での平田さんの発言は、忠告なのだ……。アジアに対する忠告なのだ。そう思うと別の世界が見えてきます。
これからますますの経済発展を遂げる中国にもエネルギーが必要です。原発のライセンスを買って、原発を作って、それの寿命は五〇年。古くなった原発はどうなるのか……。どこかで事故が起こり、廃炉にするためにどれほど金がかかるのか。それを仕組んでるのは誰か。そのヒントを、平田さんは韓国で呟いたんだとしたら……。
「君たちも、同じだよ」という意味を込めて。
構造を知ることは、構造から脱することの第一歩だと考えます。知ること、は、壊すことです。
対立構造もそれを知ることで、壊すことができます。
原発導入の時と同じシナリオは通用しません。
この大地震が、私自身の強固な思い込み地盤をも崩そうとしている、そう感じています。
つづく
アメリカの不安について
対立について考えてみよう