脱皮
2010年 12月 24日
他人はいつも過去の影に自分を貼りつけようとする。
それを振り払って飛び去るには血が流れると思っていた。
ぴりぴりと剥がれた皮膚から血が滲んで風が染みると思っていた。
その痛みが幻痛であることに気がついたのはごく最近のことだ。
おやまあ、ぺろりとひと皮脱いでしまえば、もう私をそこに留める者など誰もいないのに、
なぜあんなに痛いと思っていたのだろう。
いまやつやつやとした新しい皮膚とひとまわり大きくなった身体を手にいれて、
好きなところへ行けるではないか。
脱皮の仕方を覚えたのか。
剥がれ落ちていく必然を待てるようになったからか。
待つということは、死ぬことを忘れて生きていることと似ている。
いつか死ぬ日が来るのを、忘れて生きているけれど、
人はほんとうは、死ぬ日を待っているんだろう。
そして、いつかその日はやって来る。
つるんと脱皮できれば、血は流れないのだ。
日々、その練習というわけだ。