異空間の体験 「赤い靴 クロニクル」

3月8日、「Port B」の高山明さんが演出した「赤い靴クロニクル」を観てきた。
観てきたというよりも、体験してきたというべきかな。
実は高山さんの活動はずっとずっと前から気になっていたのだ。

「ツアー・パフォーマンス」……という手法を高山さんは駆使する。
 高山さんは現実の都市、社会の記憶や風景を徹底的に取材し、さらに引用し再構成し、その都市の歴史、文化、さらには都市の深層へとアートの力で潜り込む、という演劇ともインスタレーションとも言えない不思議な作品を作り続けている。

日常的な風景を歩かせながら、いつしか観客を異空間に引きずり込む。あの不思議な感覚は言葉では表現しずらく、高山さんの作品を「体験型のパフォーマンス」という単純な英語には還元したくない。

 何ヶ月、あるいは何年にもわたる緻密な取材、地域の方たちとの交流、その土地へ何度も足を運び、土地と人と対話して、土地からの情報をアートへと転化していくその手法は民族学者のようでもあり、人間的で暖かく、奥深い。それゆえ土地そのものに侵食し、ゆるやかな変化をもたらす圧倒的にリアルな力をもっているのだ。

今回、高山さんが選んだ場所「横浜 黄金町」は、光の都市/横浜の影の部分を引き受けた地域だった。売春宿が立ち並び、不法入国の外国人やヤクザが出入りするアンタッチャブルな地域。「赤い靴 クロニクル」は、戦後にアメリカ文化を受け入れて巨大化した横浜という都市を、黄金町の側から見つめようと試みる。
「横浜は異文化に差し出された処女、足を開き文化を受け入れた(正確ではないが……)」そのような記述があり、どきりとした。そこに現われて来るのは、日本とアメリカとアジアの接点であり、せめぎあいであり、その境界領域に埋没し、あるいは引き裂かれた人々の残像、……面影だった。

それらはけして悲壮感をもって語られるでもなく、かといって社会問題として声高に指摘されるでもなく、壁に貼られた古い写真たちのような懐かしさと哀れみをもって、体験する私たちに微笑みかけてくる。絶望でもなく、希望でもない、そんな極端なものではなく、もっと淡い「哀しみ」あるいは「おかしみ」であり、それこそが、この寄る辺なき時代に私たちが見いだせる、灯火のように思えた。きらびやかなイルミネーションの光ではなく、ゆらゆらとゆらめくかぼそい一本のろうそくのような灯火。でも、この灯火にこそ、人々は心を解きあって集えるのかもしれない。

ツアーの終りのショーウィンドウに飾られた赤い靴を見てそんなことを感じた。
ほんとうはもっといろんなことを書きたいのだけれど、なにせ体験型のツアーであるから、よけいなことを書くとネタバレになり、これから体験をしに行く人に迷惑である。だから、内容についてはほとんど書いていない。これを読んだ方が直接体験してみてください。もしかしたら、私とは全く違うことを感じるかもしれない。観客の関与によって体験の内容も変化してしまうのだから。

 平日はまだ定員に空きがあります。1ツアーは約1時間、参加人数は1人から3人。
 3月14日までやっています。
くわしくはこちらをご覧下さい
by flammableskirt | 2010-03-09 12:46

作家 田口ランディの新刊・イベント情報・近況をお知らせします。 


by flammableskirt
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31